ドクターコラム
欧州歯内療法学会(ESE)が招集した専門家委員会により、根管治療終了後の修復物の選択について、臨床家が意思決定するためのエビデンスに基づく原則を提供することを目的とした声明。
参考文献
European Society of Endodontology position statement: The restoration of root filled teeth
European Society of Endodontology developed by: | Francesco Mannocci1|Bhavin Bhuva1| Miguel Roig2| Maciej Zarow3| Kerstin Bitter
Int Endod J. 2021;54:1974–1981.
考察
・フェルールの存在は、前歯部および臼歯部の根管治療済歯の生存に有益。間接修復を計画する際には、可能な限り最適なフェルールを得るよう、臨床家は努力をする必要がある。フェルールのが十分でない場合、歯と修復物の生存率は低下する。
・辺縁隆線が喪失している場合、根管治療された臼歯は咬頭被覆されるべきある。しかし、修復物は常に保存的に設計し、可能な限り健全な残存歯質を残 すことを目的として、必要に応じてオンレー修復を行う必要がある。
・特にパラファンクションのある患者の根管治療済歯は、詳細な咬合評価と適切な修復管理が必要で、さらなる合併症を予防の予知性を高める。
・歯内療法後の修復過程では、咬合干渉に十分な注意を払う必要がある。
・クラックのある歯は、根管治療後に咬頭被覆にて修復する必要がある。また予後や保存の可否について患者と話し合う必要がある。 その際、発見されたクラックの位置や程度だけで判断してはならない。さらに、クラックが入った歯は、その進展によって生じる可能性のある接着と骨欠損を監視するために、慎重なX線写真のフォローアップ が必要である。
・歯冠の歯質の少ない歯にポストを使用することは維持のために有効である。しかし、ポストの設置が歯の生存率を向上させることはない。ポスト設置のための歯質の削合は避けるべきである。
・ポストの材質が歯の生存率に影響を与えるというエビデンスはない。材質より、築造の際の無菌的処置が重要であろう。
・臼歯部の補綴において、エンドクラウンのデザインの修復物は歯質削合量が少なく、従来のフルカバレッジのクラウンの替わりとなる適切な修復物といえる。ただし、正しい接着のプロトコールに従うことが不可欠である。
解説
根管治療は根尖性歯周炎(根の先の病気)の予防と治療のために行われます。根管治療は最終目標である歯の長期生存のためのひとつの過程で、長期で歯を機能させるためには根管治療と同レベルで最終修復が重要です。
根管治療後の臼歯部は、咬頭被覆(クラウン、オンレー)したものとしないものを比較すると、咬頭被覆しなかった歯の喪失率は5~6倍高くなると報告されています。辺縁隆線(歯と歯の間の歯質)が十分残っていればその限りではありませんが、臨床的に辺縁隆線が十分に残っている症例はかなり少なく、ゆえに臼歯部の根管治療後の修復は咬頭被覆すべきものがほとんどです。エンドクラウン(歯冠継続歯)のデザインの修復も有効なようです。
修復の失敗のひとつは合着時の接着の失敗が挙げられます。接着のための配慮は不可欠で、特にレジンセメントを使用する際はラバーダム防湿が有効です。
支台築造(土台作り)において、現在ファイバーポストを使用し直接法で行うことが多くなってきています。しかし、ファイバーポストの使用は歯の生存率を上げることはことはなく、築造体の維持が必要な場合のみ使用します。支台築造にポストを使用することより、フェルール(クラウンなどの歯冠補綴物のフィニッシュラインから歯冠側寄りの残存歯質を抱え込む部分)を確保することが重要です。フェルールの不足は生存率を大きく下げます。フェルールが不足している場合は、歯冠長延長術、矯正的挺出により、積極的にフェルールを確保するよう努めるべきです。
クラックが入ってしまっている歯の予後は不透明です。しかし、クラックの存在だけで保存の可否は判断できませんし、するべきではありません。クラックに沿って骨欠損がある場合は予知性は低くなります。
八王子・西八王子の歯医者 レイス虫歯クリニック
院長 池田 洋之