ドクターコラム
二次感染制御の強化型プロトコールの影響の微生物学的調査
参考文献
Impact of an Enhanced Infection Control Protocol on the Microbial Community Profile in Molar Root Canal Treatment: An in Vivo NGS Molecular Study
Shatha Zahran, BDS, MSD, PhD,*† Francesco Mannocci, BDS, BSc (Hons), PhD, MJDF, MFDS,† and Garrit Koller, MD, DDS, PhD, FHEA
J Endod 2022;-:1–9.
今回のコラム
・二次感染制御のプロトコールを、標準と強化型に無作為に割り付けた
共通プロトコール :ラバーダム、周辺の消毒
標準プロトコール :根管形成後にグローブを交換
強化型プロトコール:根管形成後にグローブ、全ての器具、ラバーを交換
顕微鏡、ライトのハンドルを消毒
滅菌ダイアモンドバーの使用
・75本の初回根管治療の臼歯
・ケモメカニカルプレパレーションの前(S1)と後(S2)に、ペーパーポイントにてサンプリング
・次世代シーケンサーにて解析
結果
・S1の試料において、標準と強化型のプロトコールの群分布による違いは認められなかった
・S2の試料において、標準より強化型プロトコールで有意に微生物のリッチネス、多様性は
低かった
・いくつかの分類群では、強化型に比べ標準プロトコールで相対量が有意に多く検出されたり、
強化型では観察されなかったが標準では一部のサンプルで増加したりした。
考察
・現在の歯内療法のベストプラクティスを実施しても、医原性汚染の可能性があり、強化型プロトコールは根管内の感染を本質的に改善するのではなく、汚染を軽減するものであることが支持された。
・いくつかの分類群では、強化型に比べ標準プロトコールで相対量が有意に多く検出されたり、強化型では観察されなかったが標準では一部のサンプルで増加したりした。この結果は、皮膚に関連する分類群に示される ように、使用された材料に起因する汚染と 、唾液による汚染または標準プロトコールにおける二次感染に由来する汚染という、潜在的に複数の汚染源に起因する汚染を支持するものである。
・標準プロトコールのS2サンプルで、多くの細菌が特異的に豊富に確認された。これは、唾液や皮膚に関連する細菌で、ラバーやグローブ、ガッタパーチャからの汚染を示している。
解説
同研究者は、昨年に今研究と同じく標準と強化型プロトコールによる影響を、1年の根管治療の予後で示しました。その結果、標準プロトコールによる根管治療の成功率は66.7%、強化型プロトコールでは85.2%と、二次感染による影響を証明しました。今研究は、以前の研究をさらに細菌学的側面から強くサポートする結果となり、無菌的処置の困難性、重要性を示しています。
標準プロトコールは、ESE(ヨーロッパ歯内療法学会)で推奨している無菌的環境を整えるプロトコールであり、決して低質なプロトコールではありません。しかし今研究から、二次感染を制御するためにはそれでは不十分であり、根管形成後には無菌的環境を再構築することが求められます。
既根管治療歯から検出される細菌は、治療に対して高い抵抗性をもつ性質があると考えられることもありますが、二次感染として皮膚や唾液由来などで根管内に侵入しやすい細菌とも言えるかもしれません。
八王子・西八王子の歯医者 レイス虫歯クリニック
院長 池田 洋之