歯髄保存療法

歯の神経を残し
歯を残す歯科治療
歯髄保存療法
歯の内部にある歯髄(しずい)は、神経や毛細血管が集まっており、歯の健康を維持するために欠かせない組織です。神経は温度や噛んだ時の刺激を知覚し、脳に伝達する役割があります。一方、毛細血管は歯に酸素や栄養を届けています。
突発的なトラブルの際は、免疫細胞の活性化や第二象牙質を形成するなど、防御機能が働いて歯を守るのです。
歯髄保存療法は、歯の重要な機能を維持するために欠かせない治療といえます。
歯髄保存の意義
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歯髄の炎症・免疫応答
炎症に対して歯髄が反応し、痛みとして知覚します。そのため、虫歯による感染にも気づけるようになるのです。しかし、歯髄がない場合は、炎症や虫歯を原因とする痛みを感じることができません。
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病原物質の流入に拮抗
病原物質が流入した際、歯髄内の免疫細胞が反応し、病原に抵抗することで歯が守られています。
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外来刺激に対する警告信号の保持
エナメル質や象牙細管から、神経線維と歯髄組織を通じて、中枢に伝達されることで刺激を知覚できます。歯髄は刺激を感知し、痛みから虫歯の感染に気づかせる役割もあります。
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硬組織形成能の維持
歯髄は虫歯の進行に対して、第二象牙質を形成するなど、防御機能により歯を守ることができます。防御機能が正常に働くには、歯髄がなければなりません。
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歯質の喪失の回避
歯髄を失うことで、歯が脆くなることはほとんどありません。しかし、根管治療を行うレベルでは歯質がすでに少ないケースが多く、歯根破折のリスクが高まります。
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治療操作や修復物による応力集中の回避
根管治療により形成したスペースに歯科用セメントを流しても、歯を補強するというのは難しいものです。根管治療が必要になった場合、歯を削る量を最小限に抑えることが重要です。
歯髄を残す重要性

根管治療をした歯とそうでない歯を比較した結果、抜歯のリスクが奥歯では7.4倍の差があるといった研究報告があります。
この数字からも、歯髄を残すことの重要性がお分かりいただけることでしょう。
出典:
Caplan DJ, Root canal filled versus non-root canal filled teeth :
a retrospective comparison of survival times. J Public Health Dent
2005; 65(2):90-96
歯髄保存療法の注意点
歯髄保存療法を行うべきか、抜髄をするべきか

「歯髄保存が可能である」という判断を行うために、いくつかの基準を設けております。また、情報のアップデートをしながら基準も見直していくなど、柔軟な対応を心がけております。
(歯髄保存が難しい場合は、根管治療にて対応する場合があります。)
歯髄保存療法を成功へと導くカギとなるのが、早期のうちに根管を封鎖することです。そのため、術後は速やかに修復物の作製・装着が必要です。
残念ながら後に失敗となった場合は、修復物を除去しなければならない場合もあります。
このような歯髄保存療法の問題点のほかに、失敗となっても症状やX線で病気がみえるまで、失敗と分からないことが多いという点もあります。X線で病気がみえるものと比較して、病気のない状態で根管治療を行ったほうが、成功率ははるかに高くなります。
歯髄保存療法では一か八かの処置ではなく、事前の診査・診断が非常に重要です。術前にはリスクや注意点をお聞きいただき、判断していただくことをおすすめしております。
歯髄保存療法の成功率

直接歯髄・部分断髄・歯頚部断髄の成功率は、永久歯の場合で93%という調査があります。成功と判断するのは、抜髄(神経を取る処置)の必要性も含めた上での成功率です。このような診断基準では、歯髄の保存が可能かどうか決めきれませんが、処置により歯髄を保存できる症例が多いことが分かります。
しかし、このレベルに至るには、事前の診査・診断が専門医に匹敵する場合だと考えます。
出典:
Prognosis of Vital Pulp Therapy on Permanent Dentition: A Systematic
Review and Meta- analysis of Randomized Controlled Trials
Mohammad Sabeti, DDS, MA,* Yujie Huang, DDS, PhD,*Yoo Jung Chung,†
and Amir Azarpazhooh, DDS, MSC, PhD, FRCD
J Endod 2021;47:1683–1695.
Feature.1歯内療法医による診査・診断

歯髄保存療法で重要ながら、特に難しいのが術前の診査・診断です。
検査では、「歯の現状はどうなっているのか?」「歯髄を残せる状態なのか?」「症例に対して適切な治療は何か?」などを明らかにし、術前に理解しておかなければなりません。
歯髄保存療法で確定診断はできませんが、歯髄電気診断や温度診、痛みの有無などから、歯髄の状況を見極めていきます。
当クリニックでは、歯内治療(根管治療)に専門的な対応が可能な歯科医師が担当し、歯髄の保存に関連する専門知識や情報のアップデートを行いながら、患者さんの治療を行っております。
Feature.2無菌的環境で行う安心の治療

お口の中の細菌は、歯髄に悪影響を及ぼします。術中の唾液や血液に含まれる細菌の影響をできるだけ少なくするためにも、対象の歯だけを露出できるラバーダムを使用した処置を行います。その他、できるだけディスポーザブルの器材を使用し、衛生管理を徹底しております。
滅菌においても高レベルな高圧蒸気滅菌器を導入し、滅菌処理を行った清潔な治療器具のみを使用。患者さんに安心していただけるように、治療環境を整えております。
Feature.3症例に合わせた治療方法の提案

歯髄保存療法といっても複数の治療方法があり、患者さんの症例に適した治療方法をご提案いたします。
また、患者さんの価値観やライフスタイルにも考慮し、一人ひとりに寄り添ったご提案を大切にしております。術前には十分な時間を設け、カウンセリングやコンサルティングを行いますので、お悩みやご要望がありましたら遠慮せずにご相談ください。
Feature.4当日のうちに修復物の型取りまで可能

断髄を行う際は、通常MTAセメントを用いますが、このセメントは硬化に時間がかかるため、その日のうちにセメント上を封鎖することは当クリニックで
は使用は行っていません。
当クリニックでは、バイオデンティンという日本未発売の速硬化性のバイオセラミックスを使用することができるため、その日のうちに型取りまで行うことが可能です。歯髄保存療法は、早期の封鎖が成功のかなめですので、封鎖までの時間を短縮できることは、治療の結果にも影響すると考えています。
歯髄保存療法は、早期の封鎖が成功のかなめですので、封鎖までの時間を短縮できることは、治療の結果にも影響すると考えています。
治療方法のご紹介
間接覆髄 Immediate Dentine Sealing

虫歯が深く、髄角や歯髄腔に近い部分まで及んだ場合、間接覆髄が必要になります。治療により、歯髄にかかる刺激の遮断が可能です。炎症を鎮静し、二次象牙質の形成を促進するなどの効果が期待できます。 間接修復では、仮封の期間中に露出した象牙質が汚染され、詰め物を装着する接着時に悪影響を及ぼす恐れがあります。当クリニックでは、Immediate Dentine Sealingと呼ばれ、露出した象牙質をレジンでコーティングする方法を採用しております。歯科用セメントとして使用するのは、コンポジットレジンです。
シールドレストレーション

シールドレストレーションとは、あえて戦略的に虫歯を削らず、虫歯の穴を封鎖していく治療方法です。「穴を封鎖すれば虫歯にとっての栄養素が無くなり、虫歯を残していても進行を抑制できる」という考え方が基本です。
ステップワイズエキスカベーション

ステップワイズエキスカベーションでは、虫歯の除去により歯髄の露出(露髄)が予想される場合、まず歯髄が露出しない範囲まで虫歯を削り取ります。この段階では虫歯が残っていますが、神経を保護するお薬を充填した後に蓋をし、約3か月~約6か月程度の期間を開けて再度治療を行います。成功が見込めれば、感染していた象牙質が期間を経て、きれいな硬化象牙質に置き換わります。
直接覆髄

直接覆髄では、虫歯をすべて削り取った際に露髄した場合、適切な歯科用セメントの使用で歯髄を外界から遮断し、上から強固な歯科素材で封鎖して歯髄の保存をめざす治療方法です。当クリニックでは歯科素材として、主にバイオデンティンを使用し、状況に応じてMTAセメントを選択する場合もあります。
部分断髄

部分断髄とは、虫歯の進行により歯髄の一部が壊死している場合、壊死した箇所だけを除去し、他の健全な歯髄の保存をめざす治療方法です。
歯科用セメントとして、主にバイオデンティンやMTAセメントを使用いたします。
歯頚部断髄

歯頚部断髄とは、部分断髄と基本的に同じですが、さらに深い場所で感染した神経を根管口で除去し、適切に封鎖する治療方法です。細菌感染の抑制と残った歯髄の保存をめざします。封鎖にはバイオデンティンやMTAセメントなど、強固な歯科用セメントを使用しております。
歯髄保存療法の症例紹介
部分断髄を行いダイレクトボンディングで修復した症例

年齢・性別 | 26 |
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治療方法 | 歯髄保存療法 部分断髄、ダイレクトボンディング |
費用 | 歯髄保存療法 部分断髄:44,000円 ダイレクトボンディング:44,000円 |
治療前の注意点
歯髄保存療法に関しての注意点
- 各種健康保険の適用外となります
- 後に痛みが出る可能性があります
- 成功率100%ではなく、結果が伴わなかった場合は根管治療へ移行となるケースもあります